社会科学入門2024後期09研究方法(3)インターネット調査『クソどうでもいい仕事の理論』
学生たちがパネル調査のテーマとして提案した内容から、現代社会におけるいくつかの主要な関心領域を読み取ることができます。特にデジタル社会における情報の流れと人間関係、そして若者を中心とした生活習慣やメンタルヘルスに関する関心が非常に高いことがわかります。
以下に、学生たちの提案から読み取れる現代社会の主な関心領域を詳述します。
1. デジタルメディアと情報の影響構造(SNS、インフルエンサー)
現代社会の関心領域として最も頻繁に登場するのは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が人々の意見形成や行動に与える影響です。
- 情報の影響経路の変容: 学生たちは、講義で学んだ**『パーソナル・インフルエンス』や「コミュニケーションの二段階の流れ」**の理論を、現代のSNS環境で検証したいと考えています。マスメディアの影響よりも身近な人々の影響が強いという古典的な知見が、インフルエンサーやオンライン上のコミュニティが「身近な存在」となるデジタル時代にどのように変化しているのかに強い関心が寄せられています。
- インフルエンサーと意思決定: インフルエンサーの影響力が、日常生活の意思決定 や大学生の購買行動、ファッション選択 にどのように浸透していくのかを追跡したいという提案が多く見られます。特に、友人や家族からの対人影響力と、SNSインフルエンサーという新しいマスメディア的な接触の影響力との相対的な強さを比較したいという意図が示されています。
- 政治的関心と情報拡散: 若者の情報収集の中心がマスメディアからSNSへ移行している現状を踏まえ、SNS上の情報発信が若者の政治的関心や政治的態度にどのような影響を与えているのかを体系的に把握したいという関心も目立ちます。
2. 健康、メンタルヘルス、生活習慣
学生自身の日常生活に根差した、デジタル利用に伴う心身の健康や生活の質に関する関心も非常に高いです。
- スマートフォン利用と依存: スマートフォンやSNSの長時間利用が、大学生の学習効率、睡眠習慣、学業成績、そして人間関係 に与える長期的な影響を明らかにしたいという提案が複数あります。特に、スマートフォン依存が若者の学業や社会的な発達に与える影響、利用のポジティブな面とネガティブな面の境界線を確立することに関心が持たれています。
- メンタルヘルスと自己肯定感: SNS利用と自己肯定感の変動の関係 や、筋トレ習慣がメンタルヘルス(ストレス軽減や自己効力感)に与える効果、さらには生活リズムのわずかな揺らぎがモチベーションに与える影響 など、心理的要因と生活習慣の連動性に注目が集まっています。
- 社会的環境とメンタルヘルス: 個人の問題として捉えられがちな若者のメンタルヘルスについて、経済状況や社会からの影響、**「人との繋がりの強固さ」**といった社会的要因との連動性を追跡し、社会全体の責任として議論したいという提案もあります。
3. 働き方、キャリア、ライフステージの変化
社会構造の変化、特に働き方の多様化と、若者のキャリア形成に関する関心も重要です。
- リモートワークの影響: リモートワークやフレックスタイムといった働き方の変化が、働く人の睡眠習慣、生活満足度、キャリア意識、そして健康(孤独感やストレス) に与える長期的影響を検証したいという提案があります。
- キャリア意識とアルバイト: 大学生の就職活動に対する不安や意欲の変化、またはアルバイト経験が将来の働き方やキャリア意識、およびモチベーション にどのように結びつくのかを追跡したいという関心が見られます。
- 家族とジェンダー: 制度が整いつつある中で、育児休業取得時の「申し訳なさ」や、男女間の取得率の差が生まれる背景にある職場の雰囲気や周りの目を明らかにしたいという、ジェンダーと働き方の課題に焦点を当てた提案もあります。
- 若年層の価値観と消費: インターネット環境で育った若い世代が、ライフステージの変化(キャリア形成、結婚、マイホーム購入)に伴い、価値観と消費行動(非金銭的価値の組み込みなど)をどのように変えていくのかという関心も示されています。
4. 学習・教育と技術革新
学習環境の変化、特に新しい技術や教育機会が学生に与える影響も関心の対象です。
- 学習習慣と効率: スマートフォンや生活習慣が学習効率に与える影響を調べるテーマ(前述)に加え、生成AI(人工知能)の利用が学習意欲や学習スタイルにどのような長期的変化をもたらすのかという、最新の技術変化が教育に与える影響を懸念する声もあります。
- 教育の公平性: 塾通いが生徒の学力に与える長期的な影響を追跡し、塾が経済格差による学力差を縮める効果があるのかを検証したいという提案があり、教育格差への関心も読み取れます。
総括
学生たちの提案から読み取れる現代社会の関心領域は、情報化・デジタル化がもたらす社会と個人の変化に集約されています。特に、情報がどのように人々の行動や意見(政治的関心、購買行動)を決定づけるのか(メディア影響の構造) と、デジタルデバイスの利用が個人の内面(メンタルヘルス、自己肯定感、生活習慣)にどのように影響しているのか という、外部からの影響力と内部の心理的・身体的安定性をめぐるテーマが、学生たちにとって最も喫緊の課題として認識されていると言えます。
これは、ちょうど「ソーシャルメディア」という新しいインフラストラクチャが、従来の「身近な人間関係」や「マスメディア」と複雑に絡み合い、個人の行動や価値観を形成する**「新しい影響の構造」**を探求しようとしている状況を反映していると言えるでしょう。
総論編
研究方法編
研究方法(3)インターネット調査『クソどうでもいい仕事の理論』
インタビュー調査でありインターネット調査でもある『クソどうでもいい仕事の理論』を中心に
VOGUE編集長アナ・ウィンターに73の質問 ─ 許せないファッション、仕事で一番大切なこと。| 73 Questions | VOGUE JAPAN
■人類学者デヴィット・グレーバーのベストセラー。
『クソどうでもいい仕事の理論(ブルシット・ジョブ)』2018年(翻訳は2020年)。
(1)最初は直感。
人材コンサル、コミュニケーション・コーディネーター、広報調査員、財務戦略担当、企業の顧問弁護士、委員会を無くすための委員会(大学)。役に立っているのか。
役に立ってないとしたら、その仕事をやってる人はどう感じているのか?
自分の仕事が存在に値すると感じているかどうか。
(2)次は実験。
「ブルシット・ジョブ現象について」という小論を発表してみる。
ケインズは20世紀末までにテクノロジーの進歩によって週15時間労働になると予測。
しかし、そうはならず、新しい仕事が際限なく生み出された。
生産に関わる仕事は自動化されたが、専門職、管理職、事務職、販売営業職、サービス業の増大。とくに管理部門の膨張。→ブルシット・ジョブ
容赦のない人員整理は、実際にモノを製造し、運送し、修理し、保守している人びと。
なのにブルシット・ジョブが増大しているのは経済的な理由ではない。それは道徳的かつ政治的な力学によるのではないか。
「たとえば、わたしたちの社会では、はっきりと他者に寄与する仕事であればあるほど、対価はより少なくなるという原則が存在するようである。」
(3)大反響と検証。
翻訳されて拡散。ゲリラポスターに引用されメディアでの議論が沸騰。統計的な世論調査が実施されることになる。「あなたの仕事は、世の中に意味のある貢献をしていますか」していないが37%。オランダでは40%。ブルシット・ジョブは存在している!
経済的な命法ではなく政治エリートの思考習慣のせい?
(4)暫定的定義。
ブルシット・ジョブとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある雇用の形態である。それがなくなっても何の影響もないような仕事。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている。
「割に合わない仕事」は「シット・ジョブ」(クソ仕事)として区別すべき。ブルーカラーで時給払いが多い。厳しい圧力。
(5)いざ、本格的調査へ。
124のウェブページ。小論に対する世界中の各メディアの反響。
250超の証言。メールとTwitterで体験談を呼びかけた。追加の質問と長い対話も(これが今どきのインタビューのかたち?)。
計11万ワードを人類学的視点から分析。
500ワードでWordA4で1ページ。なので220ページ。
■ブルシット・ジョブの主要5類型
(1)取り巻きの仕事:誰かを偉そうに見せたり、偉そうな気分を味わわせる仕事。マンションのドアマン、出版社の受付嬢、ポートフォリオ・コーディネーター。ある職務がつくられ維持されている経緯や理由を完全に把握している者はだれもいない。
(2)脅し屋の仕事:他人を操ろうとしたり脅しをかける仕事。広報。広告代理店を顧客とする映像制作会社。コールセンター。脅迫性と欺瞞性。
(3)尻ぬぐいの仕事:組織に欠陥が存在しているためにその仕事が存在しているにすぎない雇われ人。ソフトウェア開発者。互換性を確保する仕事。報告書の校正。システム上の欠陥の始末。手動でエクセルに打ち込む仕事。多くは女性。
(4)書類穴埋め人の仕事:やってないことをやったように見せる書類書き。書類づくりが表向きの目的の達成になんら寄与しないばかりか、じっさいには足を引っ張っていることを、雇われ人がたいていわかっている。組織にとっての現実は書類の上にある。書類手続き至上主義。報告書の見栄え。上役にこびた社内報。
(5)タスクマスターの仕事:中間管理職。いなくても仕事は進む。監督の必要のない人を監督する。さらに他者のなすべきブルシットをでっち上げる人もいる。「戦略的リーダーシップ」「目標」「包括的戦略」「パフォーマンス評価」などなど。かえって本業を阻害する。
■なぜブルシット・ジョブをしている人は自分が不幸だと述べるのか?
おいしい仕事とも言えるはずなのに。しかもたいてい給料はいいのに。
それはホモ・エコノミクスではない部分、すなわち他者との恒常的な交流がたたれたら衰弱してしまう社会的存在であること。
世界や他者に予測可能な仕方で働きかけできるという実感。行為主体としての感覚。
→働くフリをすることが腹立たしい、それは自分が丸ごと他者の権力の虜になっていることを突きつけられるから。
■なぜブルシット・ジョブが増殖しているのか
なにもしていないのに報酬を与えられているという事実は、市場経済の論理に反している。
なんでこんなことになるのか?
第4次部門(FIRE部門:金融・保険・不動産)=情報労働
背景として「雇用創出こそすべて」という政治文化。でも、それだけじゃない。
物財を実際に製造し、運搬し、保全することよりも、その物財の領有や分配を基盤に置き、それゆえに、システムの上部と下部のあいだに諸リソースをまわす作業に人口のかなりの部分が従事するシステム。
ここでは、その人口は複数の層に位階化されたヒエラルキーへと組織される傾向がある。
その結果、ヒエラルキーの内部では、家臣と部下の線引きがあいまいとなり、上位者への服従が仕事内容の中核を占めるようになる。→ある種の封建制!経営封建制。
クリエイティブ産業においても中間的エグゼクティブ身分が増殖している。キュレーターとか、プロデューサーとか、コンサルタントとか、コミッショナーとか、インキュベーターとか、いろいろなマネイジングディレクター。マーケティングとファイナンスの専門家だが映画やテレビについては無知。この人たちが評価・議論する。
→果てしない社内ミーティング
→開発地獄!
必要のない管理職、経営アドバイザーのような職種の増大。
■仕事の社会的価値とは?
(1)生活のためのお金を稼ぐこと
(2)世界に積極的な貢献をする機会
しかし、(2)を追求するほど報酬は少なくなる!
なぜこういうことになるのか?
実際の仕事を分解してみると、自動化できる仕事とできない仕事のあることがわかる。地下鉄労働者の場合、さまざまな乗客の手助けをしている。この部分は「ケアリング労働」だ。
■ケアリング労働とは?
他者に向けられた労働。つねに解釈労働や共感や理解がふくまれる。
しかし、商品としてのケアリング労働は一方的なこと。対価を支払う人たちは解釈労働に従事する必要がないと思っている。だから富裕な人びとはそれを規律と自己犠牲の形態と位置づけていく。→価値がないかのように(プライスレス!)扱ってきた歴史
自動化は特定の作業を効率化するが、同時に別の作業の効率を下げる。
■他方、ブルシット・ジョブは?
ケアリング労働という数量化できないものを数量化しようとする欲望が、実質のある仕事(リアル・ジョブ)のブルシット化を推進し、ブルシット部門を膨張させている。
■エッセンシャルワークの逆説
コロナ禍ではっきりしたこと。グレーバーは「シット・ジョブ」という言い方をしている。
■インタビュー調査
フロイトの精神分析学 1人1時間、総計数百時間におよぶインタビューから夢の解釈やしくじり行為の理由などを推測。
(1)生活世界の深層を探る。
(2)意味への注目。研究対象者がどのように世界を経験し理解しているか。
(3)質的であること。数量化ではない。ニュアンス。
(4)記述的であること。正確に描写する。
(5)具体的であること。
(6)倫理的であること。
■質問
(1)導入:明らかにしたいこと
(2)掘り下げ:注意信号を見逃さない
(3)探索:それについてもう少し
(4)具体化:そのときどうしましたか
・・・・
■インタビューの質
インタビュイーの回答が自発的で豊かで具体的関連性を持つか。
インタビュアーがどれだけ掘り下げているか。
全体を通して内容の解釈が進められているか。
インタビューが自己報告的で、自立したストーリーになっているか。
■インタビューを記録する
レコーダーから文字起こしへ
そののちに分析
■科学的か、妥当性はあるか
量的研究法に対して質的研究法
次回は「研究方法(4)実験」として『ファスト&スロー』と行動経済学を取り上げます。







