社会科学入門2025後期03社会科学の歴史
第3回 社会科学の歴史
ウォーラステインとグルベンキアン委員会による『社会科学の歴史』に即して説明する。
■科学と哲学の分離
古典的科学観の前提(近代ヨーロッパ)
- ニュートン・モデル:神のように(神に替わって?)人間は確実な知識を手に入れることができる。
- デカルト的二元論:自然と人間、物質と精神、物理的世界と社会的/精神的世界のあいだには根本的な区別がある。いわゆる「二つの文化」論。
17世紀から18世紀にかけて自然科学は哲学と分離していく。実験的経験的仕事が中心になるにつれて。自然科学は確実な知識であり、それ以外の知識は想像された(仮想的な)知識であって低いものとみなされる。
19世紀末までには「サイエンス」は自然科学と同一視されるようになる。もともと「サイエンス」は知識全般を指す言葉だったのに。
■大学の復活と知識の学問分野化
近代国家は、自らの意思決定をするための正確な知識を必要とした。
→大学の復活(近代大学)。ちなみに中世の大学は神学部・哲学部(法学を含む)・医学部。このうち哲学部が発展。人文学系の人たちが大学を復活させ、自然科学者を大学に引き込んだ。ちなみに自然科学者は専門の組織があったため、大学を必要としなかった。
フランス革命以降。社会生活を自然的秩序という理論だけでは不十分と感じられた。主権を持った人たちがどのように組織化し合理化していけばいいのかを考える流れ。
→19世紀前半、近代社会科学の基礎。モデルはニュートン物理学。「社会物理学」。ここに歴史学が「国民の歴史記述」を提供するものとして加わる。
参考「発明の世紀」 エジソン
■社会科学の学問分野別分割(19世紀の学問分野)
数学(非経験的活動)
実験的自然科学(物理学、化学、生物学)
++境界線++
社会科学(法則定立的)
歴史学(個性記述的)
芸術史(文学史、美術史、音楽史)
芸術活動の研究(文学、絵画彫刻、音楽学)
哲学 (非経験的活動)
境界線。世界は決定論的な法則によって支配されているのか、それとも人間の創意や想像力をはたらかせる余地や役割があるのか。
→論争の結果、決定論的法則を体現する物理学が勝利する。大学の土台に。
コントの実証主義の提案。ミルの精密科学の提案。その他、政治制度、国家のマクロ経済政策、国家間関係の研究など多数。しかし社会科学という自覚はなし。
■社会科学の制度化
現場はイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカの大学。
時代は1850年から1945年。
生き残った名称は歴史学、経済学、社会学、政治学、人類学の5つ。これに東洋学。
歴史学:
多くの歴史家は社会科学のレッテルを拒否しているにもかかわらず。
19世紀の近代歴史学(ランケ以降)は、物語や聖人伝のように民衆や権力に媚びた記述ではなく、「ほんとうは何が起こったか」を発見することに方向転換した。
客観的かつ認識可能な現実世界が存在すること、経験的証拠、学者の中立性を強調した。→自然科学と同調。しかし個性記述的で反理論化的なスタンス。→ナショナル・ヒストリーへ。
経済学:
1500-1800国家が政策立案のための知識を要請。これに応えたのが法学、国際法、政治経済学、統計学、財政学。ここから経済学へ。
経済行動は社会的に形成された制度の反映というよりも、普遍的な個人主義的心理の反映である。→現在指向的で法則定立的
社会学:
コントの実証主義。ドイツでは国家学から社会科学へ。社会改良的指向。
政治学:
法学部の抵抗。政治哲学として。国家のロジックの探究。
人類学と東洋学:
征服者として出会う2種類の人びと。
部族社会。フィールドワークと参与観察法。
西洋以外の高度文明。アラブ・イスラーム世界、中国、インド。比較文明論。
地理学、心理学、法律学はあえて社会科学の構成部分とはならなかった。(1945年以前、ひょっとすると今でもそんなところがあるかも)地理学は人文学に接近し、心理学は生理学に接近し、法律学は法律家養成にこだわった。
社会科学は総じて方法論としてはニュートン物理学を模範としていたが、西欧近代の優位性を前提していた。ダーウィン進化論が後押し。適者生存の観念の悪用。
参考 第2次世界大戦(沖縄戦)
■1945年後の社会科学内部の論争
世界の政治構造の変化:アメリカの圧倒的な経済力、米ソの冷戦、非ヨーロッパ民族の巻き返し→アメリカの影響力、ヨーロッパ中心主義という政治バイアスが問題化。
生産能力と人口の大膨張:人間活動のスケールの拡張
大学制度の膨張:社会科学者の激増
→徹底的な科学化
それまでの分割線が崩れていく。
近代世界・対・非近代世界
過去・対・現在
市場・対・国家・対・市民社会
エリア・スタディーズの発明(地域研究)
アメリカの政治的役割に即した学際研究(戦中の日本研究『菊と刀』ベネディクトを想起せよ)
テーマの地理的拡張
近代化論
歴史学と法則定立的社会科学の連携
社会科学の偏狭性が批判される。
ヨーロッパ中心主義で、ちっとも普遍的でない。
男性中心主義で、ちっとも普遍的でない。排除的。
普遍主義と自己中心主義は同居しうる。
→社会科学を脱植民地化せよ。多元的な普遍主義へ。
■自然科学からの挑戦:複雑系
線形性より非線形性
単純化より複雑性
測定から測定者を切り離すことができない
量的精密性より質的解釈的視野
「時の矢」を強調(平衡からかけ離れた系は「時の矢」の表現である。つまり不可逆性。確実な未来はない)
むしろ自然を能動的で創造的なものと考える。
→歴史上の社会と似ている。
■人文学からの挑戦:カルチュラル・スタディーズ(略してカルスタ)
合流した3テーマ→政治的インパクト
ジェンダー研究や非ヨーロッパ中心的研究の重要性(忘れられた人びと)
局地的でごく狭い範囲の歴史分析の重要性(解釈すること)
テクノロジー的達成に含まれる価値を評価する(エコロジー)
