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情報化社会と市民2025前期12いかにして個人情報はないがしろにされるか



第12回
いかにして個人情報はないがしろにされるか

■守るべきはプライバシー
プライバシーは個人のあり方や私生活を守る権利であり、個人情報はそのプライバシーを守るべき対象に含まれる具体的な情報やデータを指す。

■プライバシーとは?
そっとしておいてもらう権利
プライバシー(の権利)とは、自分の私生活や、それに関する事柄をみだりに公開されない権利。
思想、信条、性的指向、私生活の行動など。
「匿名の日記の内容」や「どんな本を読んでいるか」は、それだけでは特定の個人を識別できなくても、他人に知られたくないプライバシー性の高い情報。

■個人情報とは?
・個人情報とは、「生存する特定の個人を識別できる情報」のこと。個人情報保護法によって明確に定義された具体的なデータ。
・氏名、生年月日、住所、顔写真、マイナンバー、防犯カメラの映像など、その情報で特定の個人を識別できるか、という客観的な基準で判断される。
・病歴や犯罪歴:極めてプライバシー性が高く、かつ個人と結びついているため個人情報に該当。「要配慮個人情報」
・ネットの閲覧履歴:何に興味があるかというプライバシー情報。IDなどと紐づき他の情報と照合して個人が特定できる状態になれば個人情報になる。

■個人情報軽視の背景
①経済的側面からの分析:ショシャナ・ズボフが提唱した「監視資本主義」。巨大テック企業(GAFAなど)が「無料」サービスと引き換えにユーザーの行動データを収集し、それを予測製品として売買することで利益を上げるビジネスモデル。

②政治的・国家的側面からの分析:国家が安全保障、犯罪防止、公衆衛生(パンデミック対策など)を名目に、監視カメラ、通信傍受、位置情報追跡などの手段を用いて国民の個人情報を収集・管理している。フーコーの「パノプティコン」やアガンベンの「例外状態」の理論では、監視が常態化するメカニズムを分析している。

③技術的側面からの分析:スマートフォン、SNS、IoTデバイス、AIによるプロファイリング技術などが、日常生活のあらゆる場面で個人情報を生成・収集する「データ化」が加速。これらの技術が断片的な情報から個人の詳細な姿を再構築し、プライバシー侵害のリスクを高める可能性。

④社会心理的側面からの分析:ユーザーがプライバシーのリスクを認識しつつも、利便性や社会参加のために自発的に個人情報を提供してしまう「プライバシーのパラドックス」現象。また、SNSなどに見られる相互監視の文化が、プライバシー意識を変容させている。

⑤法的・制度的側面からの分析:GDPR(EU一般データ保護規則)や日本の個人情報保護法といった規制が存在するにもかかわらず、なぜ個人情報の軽視が続くのか。「同意」の形骸化、グローバル企業に対する執行力の限界、技術の進歩に法整備が追いつかない。

■監視資本主義(ショシャナ・ズボフ2019)

監視資本主義とは「人間の経験」を利益の源泉とする、全く新しい形態の資本主義

かつての産業資本主義が自然(土地、森林、鉱物など)を搾取して製品を作ったように、現代の監視資本主義は人間性そのものを原材料として収奪し、利益を生み出す経済ロジックである。

①原材料としての「行動余剰」
私たちが無料サービスを利用する際、サービスの改善に必要なデータ(例:検索窓に入力した単語)以上の、余剰なデータが大量に生み出されている。
検索履歴、閲覧履歴、滞在時間、クリックした場所、「いいね」、位置情報、声のトーン、顔の表情といった、私たちのあらゆる行動の痕跡。
この「行動余剰」は、私たちが意識しないうちに同意なく無償で収奪(搾取)される。これが監視資本主義の「原材料」。

②論点2:製品としての「予測製品」
膨大な行動データを分析することで、「私たちが次に何をするか、何を買うか、どこへ行くかを、極めて高い精度で予測する製品」が作られる。
予測製品は、ユーザーのためではなく、別の顧客(主に広告主やその他の企業)のために作られ販売される。

③市場としての「行動未来市場(Behavioral Futures Markets)」
「予測製品」が取引される、新しいタイプの市場が存在する。
人びとの「将来の行動」そのものが商品として売買される市場。株式市場が企業の将来の価値を取引するように、この市場では「Aさんは来週、このスニーカーを買う確率が85%」といった予測がリアルタイムで取引される。

④究極の目的としての「行動変容」
行動を「予測」するだけでなく、利益を最大化し予測を100%確実なものにするために、人びとの行動を特定の方向へと誘導し変容させる。
その手法には、ゲームの報酬設計(ゲーミフィケーション)、サブリミナルな刺激、情報の提示順序の操作、タイミングを合わせたプッシュ通知など、心理学的な手法を用いて意識しないうちに行動を操作する。
ポケモンGOが、特定のスポンサー企業(カフェやレストラン)の店舗にプレイヤーを誘導し、現実世界での購買行動を促した事例。これは、ゲームの楽しさを利用して、人々の行動を大規模に操作する実験だった。

⑤社会への脅威としての「道具主義的権力」
人間の行動を直接遠隔操作することを目的とする新しい権力。人びとに気づかれることなく、自由意志を迂回して行動を自動化・効率化する、新種の権力。
この権力は、個人の自律性、自由意志、自己決定権といった、民主主義社会の根幹をなす価値を根本からむしばむ。私たちが「自分で選んだ」と思っている行動が、実は誰かによって設計された結果である可能性を生み出すから。

まとめ
監視資本主義は単なる「プライバシー侵害」や「ターゲティング広告の高度化」の問題ではない。これは、
人間の自律性と民主主義社会の未来そのものを脅かす、新しい市場原理であり、社会秩序である

なぜ監視資本主義は成功したのか。391
前例がない・侵略としての宣言(何かが事実だと語ることで、それを事実にする)・歴史的状況(新自由主義)・要塞化・強奪サイクル・依存性・自己利益・疎外感・憧れ・権威・社会的説得・代替手段の排除・不可避主義・人間の脆弱さというイデオロギー(行動経済学)・無知(非対称的な知の分割)・速度

「当事者の気づきを回避することは、偶然でも偶発的なことでもなく、実のところ、監視資本主義プロジェクト全体にとって必須の条件なのだ。個人の「気づき」は、遠隔刺激にとって障害になる。なぜなら、気づきは、個人の認識と、実存の自覚にとって欠かせない条件であるからだ。気づきがなければ、自律的な判断はできない。同意と不同意、参加と撤退、抵抗と協力、といった選択は、いずれも気づきがなければ、下すことができない。」352

全体主義と道具主義

「聖域を持つ権利」17章 聖域!

シェリー・タークル(ターケル)
個人情報を単なるデータとしてではなく、人間性、民主主義、そして親密な人間関係を支えるための不可欠な「領域(ゾーン)」として捉える。
スマートフォンやSNSによる常時接続社会が、プライバシーの領域を侵害し、私たちから「孤独になる能力」と、それによって育まれる「本当の会話」を奪っている。
①プライバシーは民主主義の基盤である。
健全な民主主義は、個人が他者の監視を気にすることなく、自由に考えをまとめ、意見を形成できる私的な領域があって初めて機能する。
SNSのように、常に自分を良く見せ、情報を発信し続けることが求められるプラットフォームは、この私的な領域を侵食する。プライバシーに守られた空間が不可欠。
②「孤独」と「会話」のためにプライバシーは不可欠。孤独の重要性。誰にも邪魔されずに自分自身と向き合い、内省するための時間。プライバシーは、この「孤独」を確保するための壁の役割を果たす。
会話の質の低下: プライバシーが失われ、常に誰かとつながっている状態では、深く、複雑で、時には気まずさを伴うような「本当の会話」が失われる。
タークルにとって個人情報とは、守るべき「秘密」という以上に、自分自身と向き合い、他者と深い関係を築き、そして思慮深い社会の一員であるために必要な、守られるべき聖域(サンクチュアリ)。

以下は時間があれば。
■マーク・グッドマン『フューチャー・クライム──サイバー犯罪からの完全防衛マニュアル』青土社、2016年。原著は2015年刊行。

接続されればされるほど私たちはますます脆弱になる。→接続し、依存し、無防備

組織犯罪集団はテクノロジーをまっさきに取り入れる人びと(アーリー・アダプター)。

無料なのは、私たちがお客様ではなく製品だから。

Instagram、利用者による160億枚の写真はインスタの知的財産。
Googleを使ったデータはすべてGoogleが所有権を持つ
Android端末→環境状況に基づく公告(電話番号、ネットワーク情報、デバイス内のデータ、通信履歴、連絡先、あなたの動きと位置、気温湿度音量を検出できる)
利用規約が適用される、あなたに不利なように。
位置(どこにいて何をしているか)
写真には位置データが埋め込まれ、それをソーシャルメディアにアップするとその位置に関する暴露的なメタデータも伝えられる。
LBS(Location-Based Service)とは、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスを利用して、ユーザーの現在位置情報に基づいて提供されるサービス。位置情報サービスとも呼ばれ、GPSやWi-Fi、Bluetoothなどの技術を用いてユーザーの現在位置を特定し、その位置情報に基づいたサービスを提供する。
データブローカー産業。データブローカーも管理できていない。
子どもは成人の51倍も身元情報詐取の被害者になりやすい。