こころとからだのリテラシー(身体文化論)2025前期12からだ編(5)ジェンダー
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12からだ編(5)ジェンダー
■SDGsのジェンダー平等(目標5)①経済参加と機会
②教育到達
③健康と生存
④政治的エンパワーメント。
2023年、日本は146カ国中125位。②と③は平等を達成しているが①と④が低い。ただし②は中等教育までで大学は低い。
2025年は118位↓
ジェンダー・ギャップは、社会的な性別によって、機会や資源、権利へのアクセスに差が生まれている状況を示す概念。この格差は、単に男女の違いを示すだけでなく、多くの場合、一方の性別、特に女性が不利な状況に置かれていることを問題として捉える文脈で用いられる。
ジェンダー(Gender)
社会や文化によって後天的に構築される性別のあり方を指す概念 。「男らしさ」「女らしさ」といった観念、男女に期待される役割、行動様式、価値観などが含まれる。
男女間の役割分担や能力差、社会的地位の格差は、しばしば生物学的な差異、すなわち「セックス」に起因する「自然」で「普遍的」なもの、いわば「解剖学的宿命」として受け止められていた 。「ジェンダー」という概念の導入によって、これらの差異の多くが生物学的な必然ではなく、特定の社会や文化、歴史的文脈の中で「構築された」ものであることが明らかになった。
■もともとジェンダーは文法用語
多くの言語(特にヨーロッパの言語)では、名詞が「性(せい)」という文法的なカテゴリーに分類されます。これは生物学的な性別とは必ずしも一致せず、すべての名詞(物や概念も含む)が男性・女性(言語によっては中性も)のいずれかに属します。
フランス語
定冠詞が男性形は le (ル)、女性形は la (ラ) になります。
スペイン語
定冠詞が男性形は el (エル)、女性形は la (ラ) となります。一般的に -o で終わる名詞は男性、-a で終わる名詞は女性であることが多いです。
ドイツ語
ドイツ語には男性・女性・中性の3つの性があります。定冠詞はそれぞれ der (デア), die (ディー), das (ダス) となります。
【特記事項】中性名詞の例 (das) ドイツ語の興味深い点は、生物学的な性と文法性が一致しないことがある点です。
das Mädchen (ダス メートヒェン):少女
生物学的には女性ですが、指小辞(-chen)が付くと中性名詞になるというルールのため、文法上は中性として扱われます。
das Buch (本)
das Auto (車)
イタリア語
定冠詞が男性形は il (イル)、女性形は la (ラ) となります。スペイン語と同様に、-o で終わる単語は男性、-a で終わる単語は女性であることが多いです。
このように、言語によって同じ対象物(例:太陽、月、テーブル)の性が異なることがあり、これらの文法性は、伴う冠詞や形容詞の形を変化させるため、言語学習において非常に重要です。
■フェミニズム運動からジェンダー研究へ
①第一波フェミニズム(19世紀末~20世紀初頭): 「市民」の権利を、男性だけでなく女性にも拡大すること 。女性の参政権、財産相続権、高等教育へのアクセス権など法的な平等を求める運動。
②第二波フェミニズム(1960年代~1980年代): 「個人的なことは政治的なこと(The personal is political)」というスローガンを掲げ、私的領域へとその視線を向けた 。この運動は「ウーマン・リブ(女性解放運動)」とも呼ばれ、家庭内での無償労働、セクシュアリティ、避妊や中絶といった生殖に関する自己決定権、性的暴力など、これまで「個人的な問題」とされてきた事柄が、実は社会の家父長制的な権力構造によって生み出されている政治的な課題なのだと告発した 。この理論的探求の中で「セックス/ジェンダー」の区別という画期的な概念が生まれ、それを学問的に探求する「女性学」が誕生した 。
③第三波フェミニズム(1990年代~2000年代): 「女性」という主語が暗黙のうちに白人・異性愛者・中産階級の女性の経験を普遍的なものとして語りがちであったことへの内省と批判。「多様性(ダイバーシティ)」と「インターセクショナリティ(交差性)」である 。性別という単一の軸だけでなく、人種、民族、階級、性的指向、宗教といった多様なアイデンティティが複雑に交差することで、人々の経験がいかに異なるものになるかを重視した 。
④第四波フェミニズム(2010年代~現在): ソーシャル・メディアなどのデジタル技術を駆使した、グローバルなオンライン・アクティビズム。2017年「#MeToo」運動。これまで声を上げることのできなかった個人が、ハッシュタグを通じて自らの性的被害の経験を語り、国境や文化を越えて瞬時に連帯することが可能になった 。トランスジェンダーの権利擁護や、男性を「男らしさ」の抑圧から解放しようとする動きなど、より包括的なジェンダー平等を志向する特徴が見られる 。
■社会制度・構造における主要論点
①労働
ジェンダー賃金格差: 性別による賃金の不平等の構造分析。
ガラスの天井: 女性が管理職など上位の職階に昇進するのを阻む見えない障壁。
マミートラック: 出産した女性がキャリアコースから外れ、昇進が困難なコースに乗せられる現象。
ケア労働: 家事、育児、介護といった、主に女性が無償または低賃金で担わされてきた労働の価値と再配分。
②政治
政治的代表の過小: 議員や閣僚、地方自治体の首長など、意思決定の場における女性比率の著しい低さ。
クオータ制: 議員候補者や役員の一定割合を女性に割り当てる制度の是非をめぐる議論。
③家族・法制度
「近代家族」モデルの問い直し: 「夫は仕事、妻は家庭」という性別役割分業に基づいた家族観への批判。
選択的夫婦別姓: 結婚後も夫婦がそれぞれの姓を名乗ることを選択できる制度の導入をめぐる議論。
同性婚の法制化: 性的指向にかかわらず、誰もが望む相手と法的な家族を築く権利。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツ: 妊娠、中絶、避妊など、性と生殖に関する健康と自己決定権。
④教育
ジェンダー・ステレオタイプの再生産: 教科書、教材、教員の言動、制服、校則などに含まれる無意識の性別役割意識。
ジェンダー・トラッキング: 「女子は文系、男子は理系」といった、進路選択におけるジェンダーによる偏り。
⑤暴力
性暴力・DV(ドメスティック・バイオレンス): 権力関係の不均衡を背景としたジェンダーに基づく暴力の構造解明と法整備(刑法改正など)。
ハラスメント: セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントなど、職場や学校における人権侵害。
■文化・表象・アイデンティティをめぐる論点
①ステレオタイプなジェンダー表象: 広告、映画、ドラマ、アニメ、ゲーム等における画一的・偏向的な「男らしさ」「女らしさ」の描写とその影響。
ルッキズム(外見至上主義): 特に女性の身体を評価の対象とし、客体化する文化への批判。
②言語
性差別的な言語表現: 「看護婦→看護師」「OL」といった言葉の見直しや、ジェンダーニュートラルな言葉遣いの模索。
ポリティカル・コレクトネス(PC): 差別的な意図を含みうる表現を是正する動きとその反発。
③身体とセクシュアリティ
性の自己決定権: 誰と、どのような性的関係を持つか(あるいは持たないか)を自ら決定する権利。
トランスジェンダーの権利: 法的な性別変更の要件、ホルモン治療や手術へのアクセス、トイレや公衆浴場の利用などをめぐる課題。
男性のジェンダー問題: 「男は強くあるべき」「弱音を吐いてはいけない」といった「男らしさ」の規範がもたらす生きづらさ、過労、自殺率の高さなど。
■ジェンダー研究を読む
①シモーヌ・ド・ボーヴォワール『第二の性』1949
ジェンダーは構築されたものである。文化の強制による。
②ベル・フックス『フェミニズム理論』1984
『フェミニズムはみんなのもの』2000
③ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル』
1990
「ジェンダーは、そこから多種多様な行為が導きだされる安定したアイデンティティや行為体の場所として解釈すべきではない。むしろジェンダーは、ひそかに時をつうじて構築され、様式的な反復行為によって外的空間に設定されるアイデンティティなのである。 ジェンダーの効果は、身体の様式化をつうじて生産され、したがってそれは、身体の身ぶりや動作や多様な様式が、永続的なジェンダー自己という錯覚をつくりあげていくときの、日常的な方法と考えなければならない。この考え方は、ジェンダー概念を、実体的なアイデンティティ・モデルの基盤から引き離し、ジェンダーをその時々の社会の構築物とみなす基盤へと移行させるものである。重要なことは、もしもジェンダーが内的に不整合な行為によって制定されるものなら、実体という外見は、構築されたアイデンティティやパフォーマティヴな達成にすぎず、演技者を含む一般人がその信仰モードを信じ、その信仰モードにしたがって演じるようになったというにすぎない。」247
→パフォーマティヴィティ
④レイウィン・コンネル『マスキュリニティーズ──男性性の社会科学』1995
「男性は、一般にジェンダー秩序の不平等から利益を得ているが、すべての男性が対等に利益を得ているわけではない。実際には、多くの男性たちがかなりの代償を払っている。 ゲイであったり、女っぽかったり、または単に弱々しいために、男らしさの支配的な定義から逸脱した男の子や男性は、暴言や差別を受けやすく、ときには暴力の被害者になる。 男らしさの支配的定義に合致している男性も、代償を払っている。男性の健康に関する研究が示すように、男性は女性よりも、職場で事故に遭う確率が高く、暴力によって死ぬ確率が高く、アルコールを乱用する傾向が強く、(当然のことながら)スポーツによる怪我が多い。周縁化されたエスニック・グループの男性は、人種差別的な嫌がらせの対象となる可能性があるし、労働条件、健康状態、そして平均余命において最も恵まれない状況に置かれる傾向にある。」コンネル『ジェンダー学の最前線』16
⑤暴力
「暴力の問題を抜きにして、社会的資源の大量強奪を含むこのような不平等構造を想定することは難しい。男性性は圧倒的に暴力の手段をもち、また行使するジェンダーである。男性は、女性に比べはるかに武装する傾向にある。実際、多くのジェンダー体制下で、女性は武力をもったり使ったりすることを禁じられてきた(このルールは驚くほどで、軍隊内でさえ適用されている)。家父長制的に女性性を定義(依存性、恐怖心)することは、身体的なものと同じくらいに効果的に文化的武装解除を作り出す。」
(コンネル『マスキュリニティーズ』108)
■これまでの流れ
01シラバス説明
02知の理論:知識の枠組みについて考える
03こころ編(1)感情論
04こころ編(2)精神分析
05こころ編(3)精神医学
06こころ編(4)心身問題
07こころ編(5)自我論
08からだ編(1)生命・身体・主観
09からだ編(2)性現象(セクシュアリティ)
10からだ編(3)健康と病気
11からだ編(4)障害とは何か
12からだ編(5)ジェンダー
13生命倫理編(1)身体の政治
14生命倫理編(2)メディアとしての身体







