こころとからだのリテラシー(身体文化論)2025前期04こころ編(2)精神分析(フロイト、ユング、アドラー、フロム)

第4回 こころ編(2)精神分析(心の病についての2つの臨床科学:精神分析と精神医学その1)

臨床とは、目の前の患者の心身の状態を改善を目的とする活動のことで、基本的には科学的知識を応用する。


夢で逢えたら(大瀧詠一)
■無意識の発見(フロイト)


このほか光文社古典新訳文庫に多数の翻訳あり。
新潮文庫にはよく読まれた翻訳がある。



フロイトはウィーンの臨床医。
当時、神経症(ノイローゼ)に悩む多数の女性の治療にあたる。
催眠術ではなく患者をリラックスさせて内面をしゃべらせる(自由連想法)。フロイトはその語りの深層にある無意識を解釈して言語化する。臨床の対話の中で患者は(できればみずから)言語化された解釈を
受け入れることで治癒へ向かう(はず)。
しかし実際にはいろんな問題が出てくる。

フロイトの精神分析で有名になった言葉。
ナル(シ)シズム、エディプスコンプレックス、快感原則、トラウマ、口唇期、肛門愛、リビドー、エロスとタナトス、超自我、転移、反動形成、防衛機制(防衛本能として)、無意識、喪の仕事、夢の仕事、抑圧、アンビバレンツ、両性具有、劣等感、タブー、サディズムとマゾヒズム。



フロイト自身は新しい精神医学を開拓したつもりだったが、むしろ新しい人間科学を開拓したと考えるべき。
医学ではなく心理学や社会学に大きな影響。意識されない意味の世界の解明。
コペルニクスの地動説(天球の回転について)
ダーウィンの進化論(種の起源)
フロイトの「無意識の発見」は第三の革命。理性への信頼を覆すもの。
理性によって制御されない無意識的で原初的な欲望が存在する。理性信仰の崩壊?
■フロイト思想から
①ヒステリー研究(ブロイアートの共著1995年):ヒステリーは過去における心的外傷が原因だが、人格が分裂しているわけではない。心の内部が意識と無意識に分かれている。その直接的な要因は、性的な欲動が満たされなかったことにある。心の古くて深い層に抵抗している患者に分析者が能動的に働きかけて「通路」を作って到達したときに患者は解放感を味わう。催眠ではなく自由連想法。「患者のうちに、病因となる表象を意識化させること(回想すること)に抵抗する心的な力がある」この抵抗を克服する。あまりに苦しい情動を忘却するという防衛。
治療の過程で「転移」が生じる。患者が無意識の欲望を分析者に向ける現象。親密感情か敵対感情か。
②『夢解釈』1900年。新潮文庫では『夢判断』
サンプル ねじ式(つげ義春・原作)。


160の夢。そのうち3分の1がフロイト自身の夢。フロイト自身が不調だったので自己分析。夢は願望充足である。ただし、夢は抑圧された願望の偽装された充足である。
「夢の作業」(夢の仕事):自分にとって不快な願望や記憶を、意識しても不快でないものに変える。
・圧縮、置き換え、表現可能性、第2次加工
「箱に黄金虫を二匹入れておいたことを思い出した。外に出してやらないと窒息するだろうと思った。 箱の蓋を開けた。虫はげんなり弱っていた。 一匹は開いている窓から外へ飛んでいった。もう一匹は観音開きの窓の扉で押しつぶされた(気持ちが悪かった)。彼女は誰かに窓を閉めろと言われて窓を閉めたからである」
「この夢をみた女性の夫は旅行中だった。彼女には一四歳になる娘がいて、同じ寝室で寝ていた。この夢に黄金虫が登場するのは、この女性の娘が以前、昆虫採集を趣味にしていたことと密接な結びつきがある。 この女性は娘が標本を作るために、毒薬で昆虫たちを殺すのが残酷に思えて、これを嫌っていたのだった。 夢の中で彼女が黄金虫を箱の中にいれておいたのは、黄金虫を娘と毒薬から守ろうとしたからだろう。だからこそ、外に逃がしてやろうとしているのである。一匹はうまく外に逃げられたものの、 もう一匹は彼女が観音開きの扉を閉めたために、扉に押しつぶされて死んでしまった。彼女はいつも扉を開いて寝るのが好きだったが、夫に窓の扉を閉めて寝るように、うるさいほど注意されていたのだった。」
ぐったりしている黄金虫←夫の萎えたペニス←彼女の性的欲望と夫への不満と夫へのひそかな殺意


③『日常生活の精神病理学』1901年。失錯行為(しくじり行為):言いまちがい、ど忘れ(忘却)の原因。開会宣言するときに閉会宣言してしまう議長。無意識のうちに抑圧された欲望が作り出すコンプレックスと、それを抑圧しようとする意識との葛藤。

④性欲論:幼児期(生物学的な性欲動リビドー)と思春期以降(性器的)
幼児の性的な欲望は性器を使わない多形倒錯。
性感帯の推移:口唇期→肛門期→男根期(クリトリスを含む)=エディプス期
エディプス・コンプレックス①異性の親に対する愛着②同性の親への敵意③罰せられる不安

⑤心の構造(自我の構造

エス:生物学的、本能的、欲動的も無意識的なもの。快感原則に従い現実原則を無視。ひたすら満足を求める。
自我:エスを満足させるとともに現実原則にエスを従属させようとする。
超自我:自我を監視する。良心、罪悪感、自己観察、理想、検閲官、監視者。

⑥自我の駆使する防衛機制
A 回避・逃避:抑圧(否定的感情を無意識化)否認(事実は認識しているが事実の心的意味を認めない)隔離(2つの心的事実を切り離して不安や苦痛から逃れる)
B 逆転:反動形成(感情や欲動を対立物に逆転する)打ち消し
C 置き換え:象徴化(夢における)、知性化(他者への攻撃を知性に置き換える、競争心や自己顕示欲の置き換え)、昇華(本能的欲求の直接的満足を文化・芸術・学問などに向き換える)
D 自己愛的自我:幼児の自己愛的全能感、対象への同一化・同一視、投影(自分の不快な感情を相手のものだと感じる、被害妄想など)、自我の分裂。

⑦快感原則と現実原則:エロス(生の欲動)とタナトス(死の欲動)

■ユング(2人の同僚その1・分析心理学)
シンクロニシティ(乃木坂46アカペラ)
ユングは集合的無意識に進む。元型理論。精神病患者の語りと神話や宗教の語りとの共通性。オカルトや東洋的な思想に着目。
(感情によって色づけられた)コンプレックス、内向性、外向性、シンクロニシティ(共時性)
あるひとの関心や興味が外界の事物やひとに向けられ、それらとの関係や依存によって特徴づけられているとき、それを外向的と呼び、この逆に、そのひとの関心が内界の主観的要因に重きをおいているときは、内向的といい、両者を区別した。

世のなかには、ある場合に反応する際に、口には出さないけれど「否」といっているかのように、まず少し身を引いて、そのあとでようやく反応するような一群のひとびとがあり、また、同じ場面において、自分の行動は明らかに正しいと確信しきって見え、ただちに進み出て反応してゆくような群に属するひとびとがある。前者は、それゆえ、客体とのある種の消極的な関係によって、また、後者は客体との積極的な関係によって特徴づけられている。 ‥‥前者は内向的態度に対応し、後者は外向的態度に対応している。」

新しい場面、親しい環境、子ども時代、偏り、社交性、自己批判的、生まれつきの個人的素質か、西洋と東洋、素質と反対になること、消耗。
「感情によって色づけられたコンプレックス」→コンプレックスとして普及。

多くの心的内容が同一の感情によって一つのまとまりをかたちづくり、これに関係する外的な刺激が与えられると、その心的内容の一群が意識の制御をこえて活動する現象を認め、無意識内に存在して、何らかの感情によって結ばれている心的内容の集まりを、ユングはコンプレックスと名づけた。

■アドラー(2人の同僚その2・個人心理学)
アドラーは「劣等感」(劣等コンプレックス)の克服(補償)を課題とした。昨今の自己啓発本の元祖。決定論批判。心と身体は一体のもの。感情は人を支配しない。人は感情を使うのだ。ライフスタイルは自分が選ぶもの。「自分への執着」批判。再教育としてのカウンセリング。共同体感覚。




■フロム(社会学的展開)
新フロイト主義。さらにアンダーグランドに。
1941年の『自由からの逃走』ファシズムへの傾斜を分析。
人間がその社会に適応すると、その人がしなければならない行為を、その人がしたい行為に変えてしまう。→社会的性格
ナチズムの権威主義的性格は、(人類に対しては)サディスティックで(運命や宿命を受け入れることについて)マゾヒスティックな衝動を同時に持つ存在」
個人化による無力感と順応主義への傾斜。

『悪について』1964年
無意識の動機によって暴力が生じる。まずは正常なもののリスト。
(1)遊び的暴力:スキルを見せるたに行使される。
(2)反動的暴力:恐怖による。自分や他人の生命・自由・威厳・財産を守るため。合理的計算。防衛のための暴力。欲求不満や羨望と嫉妬から生じる敵意によるものも。
(3)復讐的暴力:すでに害を受けているので身を守る働きはない。自尊心・自己意識・アイデンティティの崩壊のおそれがある場合。
(4)信頼の崩壊によって生じる破壊性。家族への信頼の崩壊。近親の死によって宗教への信頼が崩壊する場合。失望が憎悪に変わる。
(5)補償的暴力:無力であることが苦しくて、それを補うために権力者やその集団に一体化するか(ナチズム、マチズモ)、破壊に走る。武器さえあれば無能な人でも自分や他人の生を破壊できる。「創造できない人は破壊を望む」
(6)サディズム:他人を完全に支配し、自分の意のままにできる無力なものにしたい、その神となって好きなようにしたいという願望。目的は相手を苦しめること。
(7)原初的残虐性:流血が最大の自己確認になる場合。動物や他人への残虐行為。

しかし、もっと病理的なのが3つある。
(1)ネクロフォリア(死者を愛する性的倒錯)人間をものとして扱う。
(2)ナルシシズム:自分の失敗や他人からの批判を受け入れず、憤慨するか、相手が無教養だと思い込む。個人のナルシシズムが集団のナルシシズムに変換され、氏族や国家や宗教や人種などが情熱の対象となる。自己肥大化と抑うつ。自分たちの立場への過大評価と、ちがうものすべてを憎む。
(3)近親相姦的共生:幼児期の母親への固着(フロイトの発見)。その人なしでは生きられず、関係が危機に瀕すると非常に強い不安と恐怖を感じる。
無意識的なチカラが一定の強さに達すると、その人たちには選択の自由がなくなってしまう。つまり制御できなくなる。

▼以上、無意識による説明は、人間の生き物としての特性に着目したもの。その分、社会的な分析が甘い。たとえばヒトラーの個人的特性とナチズムの巨大な運動との関連は必ずしも自明ではない。
▼「正常な暴力」って変な表現だが、これは「誰にでも起こしうること」つまり「誰もが加害者になり得ること」だと認識すべき。例、ストーカー。